次世代高音質スピーカーのカギは、超薄板ガラス振動板にあり

2024.11.27(2025.04.10更新)
次世代高音質スピーカーのカギは、超薄板ガラスDinorexUTG製振動板にあり
超薄板ガラス振動板を使ったスピーカーの試作品
超薄板ガラス振動板を使ったスピーカーの試作品

振動板(ダイヤフラム)とは

普段何気なく使っている、スピーカー。音は空気の振動で伝わることをご存じでしょうか?
スピーカーの内部には、電気信号を振動に変えるコイルと、その振動で空気を震わせて音を生み出す「振動板(ダイヤフラム)」が組み込まれています。振動板の素材には紙、樹脂、金属が使われていますが、「ガラスを使う」という選択に注目が集まっています。

世界で初めて、超薄板ガラスを用いて開発された振動板

[写真2]は、日本電気硝子(以下、NEG)の超薄板ガラス「Dinorex UTG®[写真1]」を、台湾のGAITが3D加工した振動板です。薄くて軽いため音の立ち上がりが速く、繊細な音の表現が可能なことに加え、剛性が高く(力を加えても変形しにくいため)不要な共振を抑えられる新素材として、オーディオ業界から期待が高まっています。

[写真1]NEGの超薄板ガラスDinorex UTG®
Dinorex UTG{{sup}}®{{/sup}}を3D成形すると写真のような超薄板ガラス振動板になる
→[写真2]Dinorex UTG®を3D成形すると写真のような超薄板ガラス振動板になる

この「ガラスの器のような」振動板には、どんな音の秘密が隠されているのでしょうか。NEGとGAITがどのようにこの素材を完成させたのか、開発の裏側を紹介します。

音の立ち上がりが早く、繊細な再現力

NEG萬「超薄板ガラス振動板は、透過性のある美しい外観に加え、音の立ち上がりが非常に速いのが最大の特長です。これにより、レスポンスに優れ、音源の繊細なニュアンスまで忠実に再現できます。すでに小型イヤホンから大型スピーカーまで、さまざまな試作品を市場に提供しており、ユーザーからは「音がとてもクリアで高級感がある」「従来素材にない音質」と高評価を得ています。」

超薄板ガラス振動板の特長
剛性※1が高い・・・音の立ち上がりが速い。分割振動が抑制される。
内部損失※2 が高い(減衰性能が高い)・・・残響が短く、音が濁らない。
薄くて軽量(比重が小さい)・・・繊細な音を正確に表現できる。
強度・硬度がある・・・割れ(クラック)や傷に強い

NEG萬 「超薄板ガラスは、従来の紙や樹脂よりも剛性が高く、迅速な反応で広い周波数帯域の音を正確に再現できます。また、金属素材は硬さはあるものの振動が収束しにくく、残響が長引いて音が曇りがちです。また重量があります。これに対し、超薄板ガラスは軽いため繊細な音が表現できます。内部損失※2も高いため(振動が吸収され減衰する速度が速いため)、残響が短く音が重なっても濁りにくい特性があります。」

ディスプレイ営業部 萬さん
ディスプレイ営業部 萬さん

このように、超薄板ガラス振動板は優れた音の立ち上がりと正確な表現、そしてクリアな再生を可能にする「軽さ」「高剛性(力を加えても変形しにくい)」「内部損失」という、高品質な音響に求められる特性の“いいとこ取り”を実現します。

※1 剛性
剛性とは、振動板が外部からの力に対して、どれだけ変形しにくいかを示す強度のことです。この剛性が高いほど、振動板は幅広い周波数帯域で正確なピストン運動(ムラなく均一な往復運動)を維持できます。これにより、音の歪みが抑えられ、原音に忠実でクリアな再生が可能になります。

※2 内部損失
内部損失とは、素材が振動エネルギーをどれだけ効率的に吸収し、速やかに振動を減衰させるかを示す特性です。内部損失が高い素材は、余計な振動や残響がすぐに収まるため、音が重なっても濁らず、クリアでメリハリのある音を再現できます。

スピーカー振動板 素材別特徴比較

スピーカー振動板 周波数特性・内部損失・耐久性比較
スピーカー振動板 周波数特性・内部損失・耐久性比較
スピーカー振動板 素材別 音の伝達速度比較
Material Beryllium (Be) DinorexUTG(Glass) Aluminium Titanium (Ti) Paper Polypropylene
Transmission velocity (M/S) 12,500 5,800 5,400 5,200 3,200 1,100
Relative Ratio (Paper=1.0) 3.90 1.81 1.69 1.63 1.00 0.34

音のスピード感やキレといった再生の基本性能は、この伝達速度によって決まります。表の数値からは、Dinorex UTG®がチタンやアルミより速く、紙のコーンの約1.8倍であることがわかります。

スピーカー振動板 素材の損失係数(DF)比較
Material Beryllium (Be) DinorexUTG(Glass) Aluminium Titanium (Ti) Paper Polypropylene
Damping Factor (η) 0.005 0.015 0.002 0.002 0.040 0.080
Relative Ratio (Aluminium=1.0) 2.50 7.50 1.0 1.0 20.0 40.0

損失係数(DF=ダンピングファクター)は、音が立ち上がってから消えるまでの比率を示したもの。数値が高いほど余計な音の響き(余韻)が少ない。DFは金属系よりはるかに高い。

スピーカー振動板 素材別の重量比較
Material Beryllium (Be) DinorexUTG(Glass) Aluminium Titanium (Ti) Paper Polypropylene
Relative Density (Paper=1.0) 1.85 2.4 2.7 4.5 1.0 0.92

軽量な素材ほど音の反応が速くなります。この表では紙を1.0として比較しており、超薄板ガラスはアルミやチタンよりも軽量です。

さまざまな形状に加工された超薄板ガラス振動板
さまざまな形状に加工された超薄板ガラス振動板

GAITとNEGの協業のきっかけ

きっかけは、2023年4月に台湾で開催された展示会でした。両社が同じ会場に出展していたことから交流が始まりました。

NEG萬「GAITから『ぜひ一度、NEGの超薄板ガラスを使ってみたい』とのお引き合いをいただきました。NEGでは2000年代から超薄板ガラスの開発に取り組み、並行して用途開発も進めていました。振動板としての応用についても、10年ほど前から音響メーカーなどへの提案を行っていましたが、GAITのようにガラスを精密に加工し、ユニット化まで実現できるパートナー企業との出会いがなく、製品化にはつながっていませんでした。そうした中で、NEGは化学強化専用※3超薄板ガラスDinorex UTG®のサンプルをGAITに提供し、これをきっかけに両社の戦略的パートナーシップへと発展していきました。

※3
強化ガラスは特殊な化学処理を行ってガラス表面を強化したガラスです。一般的なガラスに比べると、5倍以上の強度を持っています。化学処理を行うと、ナトリウムイオン(Na+)を含んだガラスを、カリウムイオン(K+)を含む硝酸カリウム溶液に浸すことで、ガラスの表層部にあるNa+が、溶液中のより径の大きなK+と置き換わります(これを「イオン交換」と呼びます)。その結果、外部の衝撃や力により、ガラス表面の割れ目(クラック)を広げようとする力(引っ張り応力)がかかっても、逆方向に表面を圧縮しようとする力が発生することで、力が相殺されるためクラックが進行しにくくなり、その結果割れにくくなります。 詳しくは、Dinorex UTG®の製品ページをご覧ください。
直径3mm(半径1.5mm)以下まで曲がるDinorex UTG ®
直径3mm(半径1.5mm)以下まで曲がるDinorex UTG®

卓越したGAITの超薄板ガラス3D加工技術力

GAITは、ガラス振動板の3D加工技術を世界で初めて実現し、この分野の技術革新を牽引してきました。複数の特許でプロテクトされた独自技術を基盤に、コア技術と応用開発の両面でリードを続けています。中でも、厚み0.4mmから0.025mm(25μm)という、超薄板ガラスを高い平坦性(表面の凹凸や反り、うねりなどが少ない状態)を保ったまま3D加工できる技術は、世界でも比類のないものです。

NEG萬「GAITはガラスに関する高度な知見と、3D加工設備を自在に扱う技術力を備えており、それが競争優位の源となっています。一般的に、薄いガラスは加工時に板厚が不均一になったり、成形後の形状が崩れたり、シワが生じるなどの問題が起こりやすいものです。薄いので加工中に割れやすいというリスクもあります。それらの要素を総合的に制御しながら、平坦性に優れた3D加工ができるメーカーは際立った存在です。」

NEGの高品質な超薄板ガラスと丁寧な品質管理

GAITがNEGの超薄板ガラスを選ぶカギとなったのは、

  • 超薄板ガラス振動板に欠かせない優れた平坦性、均一性
  • 高い品質管理の下での安定した製品供給と充実した顧客サポート

などにあったと萬さんは語ります。

優れた平坦性、均一性を有するDinorex UTG ®
優れた平坦性、均一性を有するDinorex UTG®

NEG萬「評価されたのは、NEGの超薄板ガラスが平坦性、均一性に優れているという点です。これはとても重要な要素で、平坦性に欠けるガラスだと、成形した後も凸凹が残ってしまいます。NEGではどのような板厚のガラスでも極めて平坦でスムーズな表面を実現していて、その点が評価されました

もう一つの「高い品質管理」については?

NEG萬「ガラスは割れやすく、取り扱いが難しい素材です。例えば、DinorexUTG®のような強化ガラスといえどガラス表面への衝撃には強靭でも、端面(ガラスの切断面)への衝撃には弱いという性質があります。そこで、NEGでは、製造工程における端面処理(割れの原因となるガラス切断面を滑らかな状態に処理すること)を丁寧に行い、高品質のガラスを安定して供給できる体制を整えています

NEGの製造技術と品質管理により、どの板厚でも高品質なガラスを安定供給できる点が高く評価されました。

グローバル市場を狙う日台企業の戦略的パートナーシップ

左:GAIT創設者兼会長 David Chou氏  右:日本電気硝子(NEG)取締役常務執行役員 森井守氏
左:GAIT創設者兼会長 David Chou氏  右:日本電気硝子(NEG)取締役常務執行役員 森井守氏

両社の出会いから1年を経た2024年4月。超薄板ガラス振動板ビジネスに将来的な可能性を見出したNEGはGAITへの出資を決定し、戦略的パートナーシップを締結しました。

調査機関(GMI)によると、世界のオーディオ市場のうちスピーカーの振動板は270億米ドルと予測されています。NEGにとって、オーディオスピーカー市場への参入は初の試みです。
しかし、素材そのものの性能を起点とする私たちのアプローチは、これまでにない製品価値を提供できると考えています。

超薄板ガラス振動板の特性を活かした製品開発や事業展開をご検討中の企業様は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

《本記事に関するお問い合わせ》
総務部 広報担当 電話:077-537-1702(ダイヤルイン)
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